活字マニアの本棚

有川 浩

有川浩の作品は、とにかく読みやすく、個々のキャラクターの輪郭が非常にはっきりしており、感情移入しやすいところに良さがあると思います。キャラ立ちが上手いんですね。それでいて、ライトノベルよりは状況説明や物語の背景が詳細で、しっかりと情景を頭に描くことができます。初期の作品は状況に応じた「使命」とキャラクターの「心情」、これらに伴って起こる人間ドラマ、というテーマで大体一括りにできるかと思いますが、大抵、直情的なキャラクターが出てくる青春ドラマです。近年の著作になってくると、キャラクターの雰囲気にも違いが出てくるのですが、私はどちらかというと初期の作品のほうが好きです。竹を割ったような、というか、単純、というのでもなく…、清々しい。これですね。初期の作品の主要な登場人物は共通して、「清々しい」という言葉がぴったりです。きっと有川浩自身がそういう方なのではないでしょうか。対談やエッセイを読んでいても、「有川節」とでも言いましょうか、そういう気風が随所に感じられます。エッセイだと『倒れるときは前のめり』もよかったですよ。

有川浩の作品の中で、私が一番最初に読んだのは『海の底』。自衛隊3部作の第2弾ですね。それ以来非常にハマって、有川浩の作品は全作網羅しています。自衛隊3部作の『海の底』と『空の中』では、物語は2種類の視点から語られます。事態の渦中に行き合ってしまった子供たちと、収拾に奔走する青年たち。『海の底』ではさらに事態の渦中にいる青年と子供たちと、収拾のために実動する刑事や官僚といった体制側のオジサンたち、という分け方もできますね。そう考えると、有川浩の作品には、こういった同じ時間軸を異なる視点から描写する手法が多く使われています。映画化された『阪急電車』はオムニバス形式ですが、阪急電車の今津線(片道わずか15分しかないローカルな路線)に乗ってくる乗客の視点から、それぞれの事情を絡めて物語を紡いでいきます。2者の視点、という意味では『ストーリー・セラー』は最たるものかもしれません。またこれも心震えるお話です。

その他にも、漫画化、映画化と一時話題作になった『図書館戦争』は、BookLive!のベスト小説ランキング100でなんと4位に選ばれています。1位〜3位は『赤毛のアン』『銀河英雄伝説』『竜馬がゆく』。この3作と並べられるのはすごいでしょう。やはり好きな作家さんの作品がこうして評価されると非常に嬉しい気持ちになりますね。また漫画も、原作好きが楽しめる内容になっています。「ザ・少女漫画」、な作品ではありますが、原作の雰囲気をそのままコミカライズしていて、登場人物に感情移入して小説を楽しむ方であれば好きなのではないでしょうか。私も楽しく読みました。
コミックシーモア 図書館戦争 LOVE&WAR 1巻
https://www.cmoa.jp/title/58029/

私は漫画もある程度読みますが、小説には求めないような、かるい読み心地のものが好きです。心温まるストーリーが絵で楽しめるのが良いのです。ハートウォーミングな雰囲気、有川浩の作品で言えば、阪急電車や植物図鑑のような雰囲気、とでも言いましょうか。下記のサイトでは、ほっこり癒し系の私がおすすめできる作品ばかり並べて紹介されているので、よければ是非ご一読ください。
Manga-zuke
http://manga-zuke.net